Vol.08

『令和5年度 税制改正大綱によるインボイス制度対応への影響』

2022.12.19

①はじめに

2022年12月16日に、自民・公明両党は与党の令和5年(2023年)度 税制改正大綱をまとめ、承認しました。
自民党のHPにて、即日公開されています。令和5年度与党税制改正大綱

注目されていたものの1つに、インボイス制度対応の緩和措置があります。
小規模事業者への緩和措置が中心ですが、すべての事業者に適用される恒久的な緩和策もあります。
1つ1つ、影響を見ていきましょう。

②免税事業者がインボイス登録した場合の3年間の緩和措置(2割特例)

免税事業者に対する、3年間の緩和措置です。

(1) 適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額向上に関する経過措置
① 適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと又は課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる場合には、その課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、当該課税標準額に対する消費税額に8割を乗じた額とすることにより、納付税額を当該課税標準額に対する消費税額の2割とすることができることとする。
(注1)上記の措置は、課税期間の特例の適用を受ける課税期間及び令和5年10月1日前から課税事業者選択届出書の提出により引き続き事業者免税点制度の適用をうけられないこととなる同日の属する課税期間については、適用しない。
(注2)課税事業者選択届出書を提出したことにより令和5年10月1日の属する課税期間から事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる適格請求書発行事業者が、当該課税期間中に課税事業者選択不適用届出書を提出したときは、当該課税期間からその課税事業者選択届出書は効力を失うこととする。
② 適格請求書発行事業者が上記①の適用を受けようとする場合には、確定申告書にその旨を付記するものとする。
③ 上記①の適用を受けた適格請求書発行事業者が、当該適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を納税地を所轄する税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用を認めることとする。
④ その他所要の措置を講する。

免税事業者の方の年間の総収入の約2%が、消費税の納税額となります。
例えば、年間 660万円の収入であれば、そこに含まれる消費税 60万円の20%である、12万円が消費税の納税額となります。
会計ソフトをお使いの場合は、簡易課税でみなし仕入率を80%に設定すれば同じ結果になります。

簡易的に確認するのであれば、
インボイス制度施行後の利益(負担増)シミュレーション、12パターン
を使って、
・支払先の簡易課税時のみなし仕入率:80%
・支払に、年間の総収入を入力
を設定して、
・④ 支払先は申請を行い、課税事業者となるパターン
・A 発注元の利益を維持
の、「支払先消費税納税額」見ると、消費税の納税額がわかります。

決して少ない額ではありませんが、免税事業者の方は選択肢として検討ください。

③中小企業の1万円未満の仕入・経費のインボイス不要(少額特例)

年間の課税売上高が1億以下の会社に対する緩和措置です。

(2) 基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、当該課税仕入れにかかる支払い対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除を認める経過措置を講ずる。

6年間はインボイスがなくても、1万円未満については仕入税額控除できるというものです。
1万円未満ですので、備消品の購入や、社員の立替金精算が主な対象となります。
特に社員個人のクレジットカードでの立替金精算については、インボイスが不要となりますので、一定の事務手続きの軽減になります。
ETCの料金を交通費として実費精算している場合など、これまで通りの対応で良いのは、うれしい会社も多いのではないでしょうか?

課税売上高による制限を入れずに、全事業者を対象としても良かったと思いますが、悪用を懸念してのことかもしれません。

④1万円未満の適格返還請求書が不要

恒久的な措置です。

(3) 売上げに係る対価の返還等に係る税込価格が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務を免除する。
(注)上記の改正は、令和5年10月1日以後の課税資産の譲渡等につき行う売上げに係る対価の返還等について適用する。

インボイス制度により、事務処理が煩雑になると懸念されていた、
・請求書発行後の端数値引き
・売り手負担の振込手数料
について、新たな書類の発行が不要となりました。
請求書発行システムの改修が必要だと懸念していた会社にとっては朗報です。
特に、少額の振込手数料のために、それ以上の事務処理の手間やシステムの改修を行うのはナンセンスですので、妥当な判断だったと思います。

⑤インボイス登録の期限などの配慮追加・拡充

これまでも様々な、特例がありましたが、追加・拡充です。
かえって複雑になって、税務署に1つ1つ確認しながら行わないと、間違えそうです。

(4) 適格請求書発行事業者登録制度について、次の見直しを行う。
① 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、課税期間の初日から登録を受けようとする場合には、当該課税期間の初日から起算して15日前の日(現行:当該課税期間の初日に前日から起算して1月前の日)までに登録申請書を提出しなければならないこととする。この場合において、当該課税期間の初日後に登録がされたときには、同日に登録をうけたものとみなす。
② 適格請求書発行事業者が登録の取消しを求める届出書を提出し、その提出があった課税期間の翌課税期間の初日から登録を取り消そうとする場合には、当該翌課税期間の初日から起算して15日前の日(現行:その提出があった課税期間の末日から起算して30日前に日の前日)までに届出書を提出しなければならないこととする。
③ 適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置の適用により、令和5年10月1日後に適格請求書発行事業者の登録を受けようとする免税事業者は、その登録申請書に、提出する日から15日を経過する日以後の日を登録希望にとして記載するものとする。この場合において、当該登録希望日後に登録がされたときには、当該登録希望日に登録を受けたものとみなす。
(注)上記の改正の趣旨等を踏まえ、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けようとする事業者が、その申請期限後に提出する登録申請書に記載する困難に事情については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。

⑥まとめ

免税事業者にとっては、3年間・2割という緩和措置は助かります。この緩和措置により、インボイス登録を行うという判断をする免税事業者も多くなるでしょう。

課税売上高 1億円以下の会社限定ですが、社員が個人のクレジットカードで、ETC料金や、ちょっとした備消品をネットショップで購入した場合の立替金精算でインボイスが不要となったことは、社員の周知がなかなか行き届かない事を考えると、助かる会社も多いと思われます。6年間の期間限定ですので、その間に周知徹底しないといけません。

多くの会社にとって、一安心なのは、1万円未満の適格返還請求書が不要となった点です。
特に、売り手負担の振込手数料については、どうしたら良いのか頭を抱えていた経理担当者も多いと思います。
この点について取引先と交渉して、個別に調整・確認の手間が不要となったことも大きいです。
個人的には、これを機に「売り手負担の振込手数料」という商習慣が根絶されれば良いと思っていたのですが、それが残るのは少々残念ではあります。

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